3日目 6月19日  ウイーン


 ウイーン終日自由行動。そして夜はオプショナルのウイーンフィルをあの楽友協会で聞く事が出来る日です。
昼間の我々の計画は今年オープンしたばかりという
リヒテンシュタイン美術館クリムト、エゴンシーレなどの絵のあるベルベデーレ宮殿へ「絶対行きましょうね」でした。

 ホテルからやはり地下鉄でオペラまで出て、そこからトラム、ルートDでリヒテンシュタイン美術館へ行き、同じルートDで逆方向オペラを通り越して終点一つ手前がベルベデーレです。又例の地図をバッグに入れ、手帳にしっかりメモをして気負いこんでしゅっぱ〜つ!地下鉄はもうお任せ下さい。問題はトラムです。初めて行く所とて、乗ったは良いが、何となく不安です。一応運転手さんに確かめましょう

「リヒテンシュタイン美術館に行きたいけれど、このトラムで良いですか?」
「NEXT STOP」
「?」
絶対そんなことあり得ない。おかしい。
「あそこに路線図があるわよ」とバジルさん。「ホラちゃんとリヒテンシュタイン何とかって書いてある」等と云っておりますと、忽然と白馬の騎士が現れたのでありました。

前の方の席から初老の紳士が我々の席に歩み寄って参りました。
「あなた方はリヒテンシュタイン美術館にいらっしゃるのですか?」
「はい」
「ドライバーが次の停留所で降りろと云ったのが聞こえましたので。」
「あの・・このトラムで大丈夫でしょうか?」
「はい。実は私も丁度これからそこへ行く所です。宜しければご一緒致しましょう。」
地獄に仏。「ニコニコ」と私たち。再び紳士曰く。
「新聞に今日と明日の割引券がついておりましたので、来る気になったのです。一枚で2人使えます。お二人のうちどちらか私と一緒に入場して下さい。」・・え〜シンセツゥ〜

それからは、正にトラムは揺りかごのごとく、リラックスして周りの景色など眺めて楽しみました。間もなく到着。美術館は停留所から歩いてすぐの所です。

リヒテンシュタイン美術館の門

リヒテンシュタイン宮殿

 彼はチケット売り場へ行き、全員「Over 60years old」で有ることを確認してシニア料金、で且つ割引2人分のチケットを買って渡して下さいました。
「ではゆっくりお楽しみ下さい。」
そう仰るとスマートに手を振って彼方に消えてゆきました。当たり前の事のようですが、なかなか出来ない親切だと感謝感激の超ハッピーな二人でありました。

リヒテンシュタインシュタイン美術館の事は私は知りませんでしたが、ある方が、ウイーンへ行くならばと、この美術館を紹介した新聞の切り抜きを下さいました。その上、バジルさんのお友達もお勧めになったという事で、是非行って見ましょうという事になったのでした。URLと地図を頼りに偶然白馬の騎士の乗ったトラムへと導かれた次第でした。

 ここは、「2004年3月29日に新装オープン、リヒテンシュタイン公ハンス・アダム2世の美術コレクションが展示されている個人コレクションとしては世界最大規模で最も重要なもの」だそうで、宮殿すなわち華麗なバロックの世界となっておりました。
日本語のハンディーな冊子が渡され、順番に全ての作品と作者の解説が書かれ、大変親切なものでした。 例えば・・
X.1 ●1001
ヤン・ブリューゲル父 (1568〜1625)
若きトビアスのいる風景  1598 油彩・銅版
この絵には幻想的な河風景の中で、色とりどりに装ってさんざめく人々の群れが描かれている。後略。

ブリューゲルの父も画家であったとは初めて知りました。作風が良く似ており、子のブリューゲルが父親の影響を受けているのだと感じました。

URLで見ますと( リヒテンシュタイン美術館のURLはこちらです。)宮殿の修復の様子が出ておりすが、目を見張ったのは天井画の美しさ、調度品の豪華さでした。テーブルや置物、家具(と言っても美術品)が絵と優雅に響き合っております。

そこにラファエロ、ルーベンス、レンブラント
等の絵が惜しみなく並べられているのです。
「わ〜、すごいわねぇ。これも
ルーベンスよ。」
「バジルさん、この絵素敵!写真に撮っておいてね。」
その時デジカメでノーフラッシュの操作が出来なかった私は必死でお願いです。誰の作品だったのかどうしても思い出せませんが、黒い背景の中に少し顔を斜めに上げた若い女性のロマンティックな肖像画でした。

 次の部屋へ移る時、バジルさんが目さとく
「あ、さっきの方が・・」と仰る先を見ますと、中央のホールの椅子にちょっと疲れたような表情で彼の白馬の騎士が座って居りました。何だか寂しそうに見えてしまった。

私たちは声を掛けずにそっとそこを離れ、再び素晴らしい公爵家のコレクションの空間に誘われて参りました。

 美術館付属のレストランでゆっくり昼食をとり、振り返りつつ、次のベ
ルベデーレ宮殿へと向かいます。来た道を戻れば良いわけで、今度はゆとりのトラムです。
昨日行った美術史美術館の前を通り過ぎ、市庁舎の前も通り過ぎ、オペラ座も通り過ぎ、ついでにベルベデーレ宮殿までも通り過ぎて一停留所先の終点まで行ってしまいました。でも、一寸バックしただけですぐにベルベデーレ宮殿に到着致しました。

 この前のツアーで来た時は宮殿の外観と庭園をちょっと眺めただけで、上宮の美術館入り口を恨みがましく素通り。悔し紛れにリンデンの並木の下で写真だけ撮って後ろ髪を引かれる思いをした所です。今日見ればリンデンの白い花が今を盛りと咲いておりました。
リンデンの白い花 庭園の美しい花々

 チケット売り場で、シルバー料金5ユーロを払って目出度く入館!
お目当ては勿論クリムトとエゴンシーレです。
新しい色彩豊かなリヒテンシュタイン美術館と比べますと、天井も高く、古めかしい部屋にここが住処と並ぶウイーン世紀末の画家達の絵画を一つ一つ眺めてゆきます。クリムトの絵は写真やTシャツのデザイン・・で、お馴染みですが、大きな実物に近寄って見ますと、部分部分が京都などの寺院の雅やかな襖絵の技法にそっくりで有ることに気づきます。念願叶い、遂に本物をみたぞ〜。

 満足して庭園に出ますと、遠くにウイーンの町が絵のように見え、その中心にシュテファン寺院の尖塔が幻のように聳えておりました。
 
ベルベデーレ宮殿上宮
普通は来た道を戻れば元の所に帰ることが出来る筈ですよね。またまた余裕のトラムだった筈が、途中で雲行きが怪しくなりました。

殆どものを云わなかったドライバーが急にアナウンスを始めたのです。しかもドイツ語で長々と。誰かが何かを聞いて居ります。そして、次のストップで何人かが降りて行きました。一寸不安です
バジルさんが、「これ、別の所にゆくんじゃないかしら、後ろに日本人が乗ってるから聞いてみ
ましょう」と、緊急事態発令です。やはり、このトラムはオペラには行かないからオペラ方面に行く人は乗り換えなさいと云ったようです。アララ、どうしよう?困ったわね。すると、今度はTシャツの騎士がツと現れた!!
「あなた達、オペラに行くんでしょ?なら、私たちも行くから一緒についていらっしゃい。次の駅で降りますよ。それから地下鉄に乗りますからね。」


今度の騎士は頭の禿げた元気なおじいちゃんと小太りで足が少し不自由そうな奥様の二人連れです。私たちは何てついているのでしょう。すぐ救いの神が現れる!(いや、余程心細そうで哀れを催したのかも知れません)おじいちゃん騎士は私たちを気遣って、度々後ろを振り向きながらCome!のジェスチャーです。

「ぼく一人で3人の女性をエスコート!」なんて冗談を言いながらトラムのストップからすぐ近くの地下鉄に乗り込みました。
「日本人ですか?僕はニューヨークから来たアメリカ人で、ここの大学でマーケティングを教えているプロフェッサーです。」
まぁ、人は見かけによらぬもの。ちょっとくたびれたTシャツにリュックを背負っておどけて見せる、そういえばやはりこの明るさはアメリカ人!

「さ、次で居りますよ。降りたら分かりますね。では、Good Bye は日本語で何といいますか?」プロフェッサーは手を合わせて拝む形をして「Sayonara」と言って手を振って地下鉄の階段を登って行かれました。心に暖か〜いものが残りました。

 2日間のウイーン冒険?も無事におおよそ目的を達し、いよいよ今夜は念願の
楽友協会でのウイーンフィルのコンサートです。親切なプロフェッサーと別れた私たちは少し早めにホテルに帰りましょうと話し合いましたが、一寸待って!その前に折角ですからホテルザッハーでウインナコーヒーを飲んで思い出作りの仕上げをしましょう・・

オペラ座から直ぐ近くの
ホテルザッハーの喫茶店に入ります。日本で云う「ウインナコーヒー」は「アインシュペンナー」と云うのだそうですね。「一頭立ての馬車」という意味とか。これまたウイーンに詳しい友人の言に依れば、昔御者が手綱を握っている手前、片手で手軽に飲めるこの飲み物を愛飲したのでこの名前が付いたのだとか。たっぷりした入れ物にたっぷり入った丁度良い甘さのコーヒーが出て参りました。ホテルザッハーでコーヒーも飲んだし、さあ、地下鉄で一旦ホテルに帰っておめかししましょ。本当に良く頑張って歩きました!